バリー岡田の陰謀 |
この連載について
バリー岡田は、情報システム部システム課課長。すなわちわたくしヒラリーマンの上司に当たる。
これは現実の現在進行形のドキュメンタリーを元にした連載小説です。 |
2002年4月16日 実録連載−バリー岡田の陰謀1。鈴木SEに何があったのか?
新しいシステムを構築することになった。そしてその現場の指揮は僕が執ることになったのだ。
僕は約束通り翌日の午後に鈴木SEと打ち合わせを行った。 |
2002年4月17日 実録連載−バリー岡田の陰謀2。妨害工作
「いったいどういうことなんだよ、鈴木さん?」 |
2002年4月18日 実録連載−バリー岡田の陰謀3。バリー岡田はバカだった
直属の上司であるバリー岡田が仕事の妨害を画策しているというのは、何ともショッキングな事件だ。
そんな折り、事件は起こった。 |
2002年4月19日 実録連載−バリー岡田の陰謀4。バリー岡田のアルバイト
バリー岡田は鈴木SEを信用しきっていた。いや、信用ではなくてたかをくくっていたのだ。 |
2002年4月22日 実録連載−バリー岡田の陰謀5。入札業者をこっそり呼び出す
今回のシステム開発では業者を競争入札で選ぶことになっていた。
「おい、ヒラリーマンくん。各業者にはわたしが説明をしようか?」
「岡田課長はなにがなんでもダンピングシステムに仕事を出すつもりですよ」
ところが、そんな簡単に済むことではなかった。なんとバリー岡田は入札参加業者をこっそり呼びだして、事前に手を打ち始めていたのである。その内容が僕に漏れては困る。バリー岡田はそう思ったらしい。 |
2002年4月23日 実録連載−バリー岡田の陰謀6。加藤課長の直訴
残業中に、大同システムの加藤課長から電話をいただいた。
翌日僕は、待ち合わせのホテルの喫茶室にいた。待ち合わせが1時だからホテルで食事してしまおうかと思ったのだが、ランチが2500円はちょっと高い。仕方がないからすぐ近くのラーメン屋で軽めに食事を済ませた。
「まず申し上げますが、僕は大同さんの肩を持つつもりはありませんし、ダンピングさんを拒否する気もありません。でも、今の話が本当なら、とんでもないことだと思います。それで、面白いことを考えたので、僕に任せてもらえますか?」 |
2002年4月24日 実録連載−バリー岡田の陰謀7。バリー封じの手
加藤課長と話をしたあと、僕は会社に戻って、すぐに部長に会った。
「実は部長、今回の入札ですが、きちんとした入札方法をとりたいんですが、いかがでしょう?」
「なんなんですかそれ? なんでそんなことになるんです?」
幸いなことに部長は、バリーには入札方法が僕の提案であることは一切言わなかった。もしもそれを知ったらどんなアホなバリーでも、僕が反撃に出たことを知るだろう。いずれはそれもわかることだろうけれど、今彼に必死になられてはあとの始末が悪い。 |
2002年4月25日 実録連載−バリー岡田の陰謀8。形勢逆転
バリー岡田が勝手に入札結果をいじれないようにするために、僕は正式な入札方法を採るよう部長に働きかけて、それが成功した。
業者への入札参加説明が開催された。説明内容は僕が率いるプロジェクトチームによって作成され、部長と重役の承認を得たものだ。
「まーあのー。今回はこういうことで、入札をすることになりまして。まーあのー、私としては・・・・・・」
主導権を握ったと考えたバリーは僕に対する物言いも高圧的になり、「今回の仕事はヒラリーマンに」と断言した重役や部長が同席の会議でも、遠慮なく仕切り始めた。 |
2002年4月26日 実録連載−バリー岡田の陰謀9。バリーはユニックスがお好き?
業者がなんでもバリーに話を通すようになってきてしまったが、それは仕方がない。その人がキーマンだと思えばそのようになるものだ。 |
2002年4月30日 実録連載−バリー岡田の陰謀10。提案結果検討!
バリー岡田がWINDOWSサーバーの見積もりは出さないように大同システムに申し入れたのは、単に僕のしたいままにされるのが気に入らないバリーの抵抗だろうと、僕は考えていた。
入札の提出締め切りの日が来た。各社それぞれ営業マンが封筒に分厚い提案書を入れてもってきた。余裕で前日にもってきた会社もあれば、時間ぎりぎりの会社もあったけれど、とりあえず4社分すべてが集まった。 |
2002年5月1日 実録連載−バリー岡田の陰謀11。採用業者決定
バリー岡田はあれほど「WINDOWSサーバーでの提案は認めない」と言っていたのに、自分がコンサルタントをしているダンピングシステムの提案がなんとWINDOWSサーバーだった。 |
2002年5月2日 実録連載−バリー岡田の陰謀12。バリーの逆襲
バリー岡田がダンピングシステムに仕事を持っていきたかった理由は二つある。一つは自分がプロジェクトを仕切りたいという、出しゃばりーな性格のため。そしてもう一つはダンピングシステムの社長とバリーが友人関係にあり、ダンピングシステムからコンサルティング料をもらっているからだ。
結局僕が画策した入札でバリーの思惑は崩れ、重役の冷静な指摘で完全にバリーは敗退したはずだ。彼はがっくりうなだれて再起不能になったと確信していた。そして僕は「してやったり」と晴れ晴れとした気持ちでいたのだ。
「それはいったいどういうことなんだべか?」
−このシステムを構築するにあたって、岡田課長は九千万円の予算を組んでいた。今年は予算のオーバーを認めないという経理部の方針なので、それ以上は出せない。予算設定の責任者は課長だが、中堅社員はその作成に関わっているはずなので、ヒラリーマンも当然知っている話しであり、入札結果は予算内に納めるようコントロールしてるものだと思っていた。まさか予算が9千万円しかないとは夢にも思わなかった。部長も重役も各課の個別の予算は管理していないので、この開発予算も把握していなかった。−
しかし、僕にも寝耳に水の話だった。
しかし、大同がこの仕事を受けることはないだろう。前期赤字を出した大同システムは個々の開発で赤字になるものはすべて受けない方針になっていることを僕は知っていた。今回は損しても次回得すればいいというような営業戦略はとれない事態になっているのだった。 |
2002年5月7日 実録連載−バリー岡田の陰謀13。情報漏れ?
今回の入札はもっとも価格の低い業者を選ぶものではなかった。そう言う意味では価格を絶対視する必要はない。しかし、そうであっても出された条件の中でもっとも好条件の先をチョイスし、その条件で仕事を依頼するのが入札の基本ルールだ。入札をしておいてさらに条件を求めるというのは、客の立場を利用した暴挙ではないだろうか。僕にはやはり大同システムに値引き交渉を持ち込むのは気が重かった。
翌日、大同システムの加藤営業課長がやってきた。
「大同との話はどうだったんだい?」 |
2002年5月8日 実録連載−バリー岡田の陰謀14。バリーが加藤課長に電話?
「えらいことになっちゃいましたね」
ところが翌日、事態は急転した。 |
2002年5月9日 実録連載−バリー岡田の陰謀15。連合軍結成
大同システムとの交渉に失敗した翌日、大同システムの加藤課長からメールが届いた。 |
2002年5月10日 実録連載−バリー岡田の陰謀16。大同との交渉再開なるか?
僕は会社に帰ると早速部長と重役にアポイントメントをとった。
僕は早速「交渉継続」のことを加藤課長に電話で連絡した。 |
2002年5月13日 実録連載−バリー岡田の陰謀17。大同システムの提案裁定
重役裁定から二日後、大同システムからシステム概要のまとめと、提供価格の提出があった。
勝負は簡単についた。
これでこの仕事の山場は切り抜けたと、と僕は思った。 |
2002年5月14日 実録連載−バリー岡田の陰謀18。マネージャーを狙うバリー
業者が大同システムに決まった翌日、早速大同システムから営業部長と技術部長の二人を筆頭に、総勢10人が来社した。 |
2002年5月16日 実録連載−バリー岡田の陰謀19。小野マネージャーの意外な一言
バリー岡田は業者のコントロール役となるプロジェクトマネージャーの就任を画策した。
ところがその直後に、バリーのそのゆがんだ顔が違う意味のゆがみに変わることになった。
会議が終了するとバリーは部屋に戻ろうとする重役を急ぎ足で追いかけ、重役の部屋に押し掛けて行った。思った通りだ。 |
2002年5月17日 実録連載−バリー岡田の陰謀20。バリーの後ろ盾
突然、人事課長の幕田さんに「飲みに行こう」と誘われた。 |
2002年5月27日 実録連載−バリー岡田の陰謀21。不在を狙え!
新システムの開発業者が大同システムに決まり、プロジェクトマネージャーには僕が就任した。
「これからが大変ですよ。来月、再来月はヒラリーマンさんは毎晩残業でしょうね」
思った通り、ノー残業デーなんて作ることは出来なかった。 |
2002年5月27日 実録連載−バリー岡田の陰謀22。開発増作戦
「それはダメだよ、ヒラリーマンくん」 |
2002年5月29日 実録連載−バリー岡田の陰謀23。権限委譲
バリーは桂馬課長にあれこれ吹き込んだあと、独自のシステム構築案を作っていた。
僕は桂馬課長への説得を続けたが、桂馬課長は納得しなかった。 |
2002年5月30日 実録連載−バリー岡田の陰謀23。バリー、大役をゲット
桂馬課長といろいろ話しているうちに、バリーが吹き込んだ内容もだんだんわかってきた。
会議は朝早くから開催された。 |
2002年6月3日 実録連載−バリー岡田の陰謀24。バリーまたもや陰謀?
営業部の件はバリーが営業部長に訂正に行って、簡単に話がついた。
「何かご用でしょうか、重役」
バリーの奴も、くだらないことをするもんだ。そんな告げ口で僕がプロジェクトリーダーをおろされるとでも思ったのだろうか。 |
2002年6月4日 実録連載−バリー岡田の陰謀25。仕事攻め
「ヒラリーマンの奴、来月になったら絶対にぐちゃぐちゃになって、プロジェクトの仕事なんてまともにできなくなってる」 |
2002年6月5日 実録連載−バリー岡田の陰謀26。大同システムが仕事を降りる?
債権管理システムのスケジュールが急に早まった理由は、財務一課の安西課長に訊いてわかった。 |
2002年6月5日 実録連載−バリー岡田の陰謀26。大同システムが仕事を降りる?
債権管理システムのスケジュールが急に早まった理由は、財務一課の安西課長に訊いてわかった。 |
2002年6月7日 実録連載−バリー岡田の陰謀27。プロジェクト停止
加藤課長が今回のシステム開発を降りたいと言い出した原因はバリーだった。 |
2002年6月10日 実録連載−バリー岡田の陰謀28。対戦準備
バリーの画策でプロジェクトが止まってしまったのは、運悪く報告会の前日だった。 |
2002年6月13日 実録連載−バリー岡田の陰謀29。食いついたバリー
報告会は予定通り開催された。 |
2002年6月14日 実録連載−バリー岡田の陰謀30。会議に仕掛けられた罠
「ちょっといいですか!」 |
2002年6月18日 実録連載−バリー岡田の陰謀31。開発会議でバリーの一手
完全に叩きのめされて意気消沈したバリーは、しばらくの間おとなしくしていた。 |
2002年7月8日 実録連載−バリー岡田の陰謀32。窮鼠猫を噛む
バリーが突然攻撃調の口調になったので他の課のメンバーはびっくりしていた。
僕はこのところのバリーに対して連勝だった。 |
2002年7月10日 実録連載−バリー岡田の陰謀33。念には念を?
冗談だろ? |
2002年7月26日 実録連載−バリー岡田の陰謀34。観念しました
僕はバリーの心理を分析して、彼がいったいどういう目的で何をしようとしているのかを考えた。 |
2002年8月7日 実録連載−バリー岡田の陰謀35。バリーの後ろに社長の陰
バリーのおかげでせっかくやった仕事の資料が消えてしまった。 |
2002年8月12日 実録連載−バリー岡田の陰謀36。バリーの盲点
財務部から依頼されていた債権管理システムは、現状の調査、洗い出しからはじめて、問題点洗い出し、それらの原因の分析、将来性を見込んだ企画、設計、開発の進捗管理までを僕が担当することになっていた。 |
2002年8月20日 実録連載−バリー岡田の陰謀37。メールは無事か?
「綾部副部長いらっしゃいますか?」 |
2002年8月22日 実録連載−バリー岡田の陰謀38。消されたメール
僕は綾部副部長が几帳面だから情報システム課の要請にしたがって、古いメールを消したのだと思いこんでいた。 |
2002年9月9日 実録連載−バリー岡田の陰謀39。システム屋の晴れ舞台
過去のデータを手に入れた僕は、それらの資料と頭の中に残った記憶から、ものすごいスピードで資料を再現していった。 |
2002年10月7日 実録連載−バリー岡田の陰謀40。バリーが踏んだ地雷
バリーは常ににこやかだった。 |
2002年10月29日 実録連載−バリー岡田の陰謀41。バリーが強い理由
もともとバリーに対して警戒感をもっている人たちはいたものの、バリーが綾部副部長の怒りを買ってからは、急激に「反バリー派」が増えてきた。 |
2002年10月30日 実録連載−バリー岡田の陰謀42。第2試合開始?
システム課に大きな問題が持ち上がった。 |
2002年11月29日 実録連載−バリー岡田の陰謀43。重役の真意は?
新しいコンピューター導入に際しての準備が開始された。 |
2002年12月19日 実録連載−バリー岡田の陰謀44。方針は決まったが・・・・・・
システムの詳細が決まった。
しかしそれから1週間、2週間、そして1ヶ月経ってもバリーからは何の指示もなかった。
そして数日後、部長がすごい剣幕でバリー岡田の元へやってきたとき、バリーがなにをしていたのか、やっとわかったのだった。
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2002年12月27日 実録連載−バリー岡田の陰謀45。常務の横車
「ちょっと岡田君!」 |
2003年1月6日 実録連載−バリー岡田の陰謀46。ヒラリーマン、担当をはずれる
ホストコンピューターリプレイスの方針が決まり、重役、部長の指示をバリーが受けてから1ヶ月半が経った。
その翌週、大同システムの三田村取締役からお誘いを受けた。
しかし、悪いことばかりではなかった。
あれからさらに半月が経ったが、ホストコンピューターリプレイスについてはバリーが宣言した通りにダンピングシステムが受注したという話も聞かないし、大同システムが完全に降りたという話も聞かない。どうやらその前段階の予算の関係で審議がなされているらしい。 |
2003年1月7日 実録連載−バリー岡田の陰謀47。左遷人事
人事異動の情報というのは一応は極秘になっている。実際に発表されるまでは全くわからないと言うのが原則だ。ところが実際には、発表前に人事異動下馬評が作成されていて、その的中率は90%を越える。 |
2003年1月8日 実録連載−バリー岡田の陰謀48。バリーがパワーアップ
人事情報が流れてから、バリーの態度がさらに大きくなったように感じる。気のせいかと思ってもみたが、他部署の人とのやりとりをみていると、そうとも思えない節があった。 |
2003年1月9日 実録連載−バリー岡田の陰謀49。効き過ぎる特効薬
役員会が開催された。この役員会で予算が確定すると、その後ホストコンピューターリプレースの稟請(りんせい)に移ることになる。 |
2003年1月10日 実録連載−バリー岡田の陰謀50。効き過ぎる特効薬2
特効薬を手に入れても、意外と簡単には使えないものだ。 |
2003年1月14日 実録連載−バリー岡田の陰謀51。かいま見た人間模様
バリーは懲戒免職はもちろん、担当からはずれることもなかった。相変わらずダンピングシステムと仕事をするつもりで精力的に動いている。 |
2003年1月15日 実録連載−バリー岡田の陰謀52。バリーがいなくなる?
サラリーマンで出世した人と出世できなかった人の差はどこにあるのだろうか。 |
僕には重役が発した質問の意味がわからなかった。
バリーは元上司であり、次期社長確実と言われている「飛ぶ鳥を落とす勢い」の青柳常務を完全に味方につけ、いまや彼自身が「飛ぶ鳥も落とす勢い」と言われそうなほど絶好調だ。
課長代理止まりだと言われていたバリーが課長になったのも青柳常務の推薦だし、そして来月には次長、そしてすこし時間をおいて部長という地位が約束されつつある。
そんなバリーが「いなくなる」とはどういう意味なのだろうか。
僕の中に少し「期待」がわき出てきた。それはもちろんバリーの失脚だ。
バリーが失脚したのだとしたら、という希望的な可能性について考えてみた。
もしそうだとすると、それはどういうことなのだろう。
あれこれ考えを巡らせてみたが、僕が考えることができたケースは一つだけだった。それは、青柳常務がバリーを切りにかかったということだ。
自分が社長になると言うときに、バリーのようなこそくな部下が邪魔になり排除しようとして、バリーを見捨てた。そして、実行役を仰せつかった久留米重役が、僕にこんな質問をしている、ということだ。
それと同時に、そんな期待などすぐに吹き飛ぶ現実を知らされるハメになるのだろうというあきらめの気持も持っていた。いや、こちらの方が可能性としては大きい。
それは、バリーが青柳常務の力で出世して他部署に移るために情報システム部からはいなくなるというストーリーだ。
そうだとしたら、いったいどこの部署に行くのだろう。
「彼は人事部次長になり、来年には人事部長だ」
そんなショッキングなことが重役の口から飛び出すような気がした。
青柳常務は人事部と総務部の担当役員でもあるのだから、青柳常務がバリーを引っ張るとしたらあり得る人事だ。人事部長、総務部長と言えばどちらも会社では重役候補となりうる高ポジションだ。
あんな人物が、バリーが重役コースに乗るなんてことはいままで考えてもみなかったが、こうなると絶対なくはないという気がしてきた。
青柳常務が社長になれば6年は社長の地位にいるだろう。その間にバリーを一生懸命引き上げるとするとバリーの地位が重役にまで到達する可能性もある。
もちろん、バリーには重役になるような能力も人格も備わってはいない。簡単に言えばバリーは「クソ野郎」だ。しかしそれでもあり得ないことはないのがサラリーマン世界だ。
社長が退任したときの自らの立場をあらかじめ考えておくことは不思議なことではない。相談役や顧問という地位につかせてもらい、そこそこ面倒をみてくれる重役を確保しておこうとするのは、サラリーマン社長では珍しくない。
そのためには、「俺がいなければ絶対に重役になどなれなかった」と相手が絶対に理解する人物をわざと引き上げることすらある。それはつまり、「実力ではとても重役には及ばない人物」ということだ。
これが、実力もないのに重役にまで上り詰めた人が存在する一つの理由だ。そういう意味で、バリーが今後大変な出世をする可能性はある。
バリーの失脚、あるいは出世。どちらなのだろう。
僕はそんなことをほんの数秒の間に頭の中でかき回していたが、その結果「質問してみよう」という当たり前の結論に達した。
「久留米重役。それはいったいどういう意味でしょうか?」
「そのまんまだ。情報システム課の業務として、岡田課長はなくてはならないか、それともいなくても大丈夫か、と聞いているだけだ」
これだけでは僕の疑問は晴れなかった。僕は少しの間考えてから答えた。
「どちらでもありません」
すると久留米重役は期待した通りにつっこんでくれた。
「じゃ、なんだ?」
今度は即答した。
「いては困る人物です」
久留米重役の口から笑いが漏れた。
「いったい何が起きているのでしょうか? 岡田課長はいまどういう立場に立っているのでしょうか?」
と聞きたい気持を僕は抑えた。
「すみませんがご質問の意味をかみ砕いていただけませんか?」
僕がそういうと、久留米重役は僕に椅子をすすめて、自分も座った。
「それなら言い方を変えよう。課長を交代させたいと思うが業務上問題はないか?」
久留米重役はあくまでもバリーが情報システムからいなくなることだけを伝え、今後の彼の処遇については言わないつもりらしい。
相手がそう言う態度であれば、とりあえずこの場は、彼がいなくなることで業務的にどんな支障があるかを冷静に回答すべきだろうと僕は考えた。
「なんら問題ありません」
「他の者で代わりがきくと言うことだね?」
「そうです」
「では、次の課長にはだれがいい?」
この質問には驚いた。一瞬、聞き違いかと思ったくらいだ。
こんなことをきかれたのは入社して以来初めてだった。僕に上司を選べと言うのか。いやまさかそんなことはないだろう。ただ参考までに聞かれただけかも知れない。
僕が答えに迷っていると、久留米重役が続けた。
「吉田部長が君に任せるというのでね。今なら好きな課長を選ばせてやる。だれがいい?」
そう久留米重役は言った。
バリーのことはともかく、僕が次期課長を決められるというのはすごい話だ。
「即答は無理のようだね。それでは明日、考えを聞かせてくれ」
僕は久留米重役にそう言われて、重役室を後にした。
もしもバリーが失脚なら、重役はバリーの悪口の一つも言っただろう。それなのに個人的な感情やバリーの今後についてを世間話的に口にすることもせず、職務的なことのみを実行しようとしていた。
と言うことはやはりバリーが出世したというとなのだろう。
腹立たしくもあるし、会社の将来も気にかかる。
そう思いながらも、「平社員の俺には関係ない」と考えてみたりもする。
しかしそれがどうあれ、目先のことだけを考えれば、バリー岡田という最低の上司が目の前から消えてくれるだけでもありがたいと思えた。
僕が考えた二つのケース。すなわち青柳常務に裏切られてバリーが失脚するケースと、青柳常務に守られてバリーが出世するケース。このどちらでもなかったことが、情報通の戸田さんによって明らかにされたのはその翌日だった。