ヒラエッセイ

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2000年8月3日(木) 旅行準備は完璧

 夏休みを早めに取ってしまった。
 今回我が家は、長野県松本市の高原に、キャンプをしに行くことにしたのである。
 キャンプというのは結構大変で荷物が山のようにある。キャンプを長くやればやるほどいろいろなグッズが増えてきて車に入りきれなくなってしまって、そのなかからまた選別したりするのだ。
「キャンプっていうのは不便を楽しむためにするんだろ。だったらそんなにグッズを持っていくのはおかしい!」
 なんていう人もいるけれど、それは違う。
 不便を楽しみたければ自分の家の水道と電気とガスをとめてみればいいのだ。
「お父さん。真っ暗でなにも見えないよ」
「まて、いまランタンつけるから。ほら、これで明るいぞ」
「ねぇ、あなた。野菜洗いたいんだけど、水はどうするの」
「坂の下の公園に行ってポリタンクで汲んでこい。ついでにスイカをバケツに入れて、水をたらたら流して冷やしておけ」
「お父さん、ポケモンみたいよーー」
「だめ。今日は電気が使えないんだから」
「暑いわねぇ、あなた。エアコンつけてもいい?」
「ばか、電気がね−のにつくか!」
「じゃ、せめて扇風機」
「アホかおまえ。扇風機も電気だろうが。ほら、これをみろ。うちわを5本用意しておいたんだ。これでお互いにあおぎあえば、みんな涼しいってわけだ。な、いい考えだろ!?」
 これで楽しかったらこの一家はちょっとおかしいのだ。

 たくさんに増えたキャンプグッズを車に積み込むのは僕の仕事だ。違う積み方をしたら絶対につめないというくらい緻密な計算で積み込んでいく。
 それを汗だくになってがんばって、きっちり積み込みを終える。その間妻は家族全員の服や薬などを用意している。これらの作業はお互いにリストを作りながらやっているのだけれど、なかなかパーフェクトにはいかないものだ。
 去年も荷物は完璧だったけれど、ビデオの予約がうまくいっていなかったことで、それまでの苦労がすべて飛んでしまうくらい僕は家族に罵倒されたのだった。
「えーー、うっそーー。失敗したのーー? ねーパパ、本当に映ってないのー−?」
「おかしいなぁ。ちゃんと予約したんだけど」
「なにやってんのよ、あなた。子供たち、楽しみにしていたのよ。あたしだって、大河ドラマは毎週ちゃんと見てたのに」
「ごめんごめん。でも、録画予約の説明書を見ながらきちんとやったんだけどなぁ」
「ねぇ、その歳で機械音痴じゃ困るわよ。全く役にたたないわねぇ、パパったら!」
「・・・・・・」
 苦労して休みを取り、一生懸命旅行を計画し、汗だくになって準備をして、旅先では家族のためにせっせと働いてくたくたになって帰ってきた。
 ありがとうといわれてもおかしくないと思うのだけど、ビデオ録画が出来ていなかったというだけで「役立たず」にされてしまったのである。終わりよければすべてよし。そしてその逆もまた真なり、というところだろうか。
「おかしいなぁ。そんなはずはないのに」
 そうは思っても、実際にとれていなかったのである。

 しかし、今回は完璧だ。リストの内容は何度も確認し、持ち物に問題はない。そしてビデオは新しくGコード対応のデッキを買ったので、Gコードさ入れれば簡単に録画予約ができるのである。これなら失敗はないだろう。
 しかも、このビデオは画面上で録画予約状況の確認もできるし、テープの残量も確認して問題があれば知らせてくれる優れものなのだ。
「今年は完璧だ! さぁ、出発するぞ!」
 子供たちを車に乗せ、ヒラリーマン家は長野へ向かい、そして満点の星空の元でバーベキューを楽しんだのであった。
「今回は去年よりもずっと手際よくできたな。早く着いたから、こうやってのんびり星を見ることもできる」
「そうね。やっとのんびりできるわ。ところでビデオの方は今年こそ大丈夫でしょうね?」
「任せとけ。今年こそばっちりだ」
「あなた、去年もそう言ったのよ」
「・・・・・・」
「本当に大丈夫?」
「今度はGコード予約だからね。3倍速だから色々予約しておいたよ。間違いないよ、完璧だ! そういう君の方こそ大丈夫だろうね?」
「もちろんよ、失礼な。冷蔵庫の中だって、数日前から計算して無駄のないように使っていったんだら。今日の朝食でぴったり空になったわ。えらいでしょ!?」
「え? でも、たった一週間の旅行だろ。なにも空にしなくても・・・・・・」
「あなたわかってないわねぇ。旅行のときはいつだってそうしてるのよ。冷蔵庫を空にしておけば、電気を止めても大丈夫でしょ。ブレーカー落としてしまうと余計な電気を使わずに済んで、電気代が結構浮くのよ。家計を任された主婦の知恵っていうのかな、あはは。完璧でしょ?」
「そりゃすごい。さすがママだ。ははははは!」
 ビデオデッキが電気で動くことなど、まるで忘れている二人なのであった。

2000年8月7日(月) 快便写真の謎

 誰にでも、とっても気になっていて、それでも相談する相手もいなくて、相談したとしても解決しないという、それでいて解決しなければしなくてもいいようなどうでもいい疑問というものがあるものだ。
 どうでもいいんだけど、何かの拍子に考えてしまうとまたまた気になって、むきになってしまったりする。だけど、やっぱりどうでもいい。そんな問題なのである。
 僕が抱えるそんな問題のひとつに、「うんこ健康診断」がある。正確な著書名は覚えていないのだけれど、結局のところうんこで人さまの健康を判断しようという、そういうことを書いている本なのだ。この本にはカラーでうんこの写真が掲載されており、そのうんこがいかなる病気の可能性を持っている持ち主のうんこであるかが解説されているのだ。
 この本を中学生のときにたまたま本屋で見つけた僕は、さっそく友達を引き連れて本屋へ行き、それを見てはみんなでげらげら笑っていた。この本をねたにしただけで1ヶ月は笑えたのだからたいした収穫だったと言えるだろう。
 しかし、その後その本は僕の心の奥底にもやもやした、やりきれない、喉に綿ごみが詰まったような嫌な疑問を残してしまったのである。

「あのうんこ、いったい誰が誰のうんこを撮影したのだろう?」
 これが僕の疑問なのだ。
「そりゃ、病院の患者さんじゃないの?」
「だれが?」
「著者はお医者さんでしょ。じゃ、そのお医者さんがよ」
「うんこだぜ。血液のサンプルとかならわかるし、検便とかならこれもわからないでもない。でもあれは、出したばっかりの生うんこの写真じゃないか。いったいいつ撮るんだ?」
「だから、患者さんにうんこしてくださいって言って、病院のトイレで・・・・・・」
「おしっこじゃないんだぞ。そんな調子よくうんこが出るもんか!」
「じゃ、出たら呼んでくださいとか、協力を求めているんじゃないの?」
「おまえはアホか!? そんな協力求められたとしてだよ、実際にうんこして、『うんこしました!』ってトイレから駆け出して報告するやつが本当にいると思うか?」
「そうかなぁ?」
「それに、あのうんこにはトイレットペーパーがかかっていない。すると患者はうんこをした直後に、ケツも拭かないで『先生、うんこでました!』っていい行ったというのか!?」
「それもそうねぇ。じゃ、患者がうんこしたあと先生がこっそり写真撮りにいくんじゃないの? トイレットペーパーはどけて」
「するとその医者は、毎日トイレでうんこのために張り込みしてるのか? そんな馬鹿な。それにさ、普通はうんこしたらすぐに流すだろーが!」
「そうか・・・・・・」
 いろいろな病気の人のうんこの写真を接写するということは、よく考えてみるととて難しいことなのだ。それだけの患者を集めることもそうだけど、うんこの写真をとるというのは医者にとって、お尻穴の写真を集めるよりも難しいと僕は思うのである。

「わかった!」
「なに?」
「あれはうんこじゃないのよ」
「え、うんこじゃない? 偽ものか!?」
「そうよ。ほら、例えばレストランに行くと食べ物のサンプルがあるじゃない。あれよ!」
 なるほど。それならわかる。そういえば昔、柏のそごうのおもちゃ売り場に作り物のうんこが売られていたことがあった。いかにも今出したばかりの匂いがもわっとやってきそうなすばらしい出来だった。値段は確か400円。あれを買って学校の机の上の置いておいたら面白いだろうと思って、随分と悩んだんだけれど、あまりにリアルで気持ち悪かったので買うのをやめたことを思い出した。
 あんなもんを売ってるから経営がおかしくなるんだ。
「あれかぁ・・・・・・」
「ロウで作ってあるのよね。チョコレートパフェとかケーキとか、本物そっくりよね」
「そうか。そうだったのか。すると、あの本のうんこもそういう業者に医者が依頼して、本物そっくりのうんこサンプルを作って、それを撮影したわけだな。おまえ、頭いいな。そうだよな。そうじゃなければカメラマンだって嫌だと思うんだよ。いくらそれが本の仕事でも、何十ものうんこを撮影するなんて、臭くてたまらないよ。まったく尋常じゃないと思っていたんだ」
「そうでしょう。きっとそうよ」
 夏休みのキャンプ旅行で僕と家内は現地へ向かう暇な車の中で、こんな会話をしていたのである。ふと思い出してしまったいつもの疑問があっさり解決した僕はもやもやした気分を一気に吹き飛ばし、晴れ晴れした気分で旅行を楽しむことに集中したのであった。

 しかし、その答えはそれから1週間後、新たにわいた疑問によって、吹き飛ばされてしまった。
「あのロウのサンプルだけど。あれってどうやって作るんだろう」
「あれは、写真を見ながら職人さんが作るらしいわよ」
「すると、うんこの写真を見ながら、職人が作るわけだな」
「そうね」
「じゃ、そのうんこの写真は誰が撮ったんだ?」
「そ、それは・・・・・・]
「写真があるなら、最初からその写真を掲載すればいいじゃないか。どうしてざわざまたロウで作ってから写真を撮るんだ? おかしいじゃないか」
「しらないわよ、そんなことは。うんこにでも聞いてよ」
 そういわれても、朝した僕のうんこはなにも答えてはくれなかった。
 どうでもいいんだけど、なやんでます。誰か正解を知っていたら教えてください。

2000年8月8日(火) 真夜中の自己催眠

 かゆい!!
 かゆい!かゆい!かゆい!
 うわーーーーーーーーーかゆいかゆいかゆい、うひーーーーーあーーぼりぼりぼりぼりいいきもちぃーーーあっいてっ。痒いけどかくと痛い。痛いけどかゆい!
 かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいーーーーーーーーーーーーーーい!

 僕は、蚊に刺されたあとのあまりの痒みで、真夜中に飛び起きてしまった。
 4日間のキャンプで右足を8箇所も刺されたのだ。僕の足には左右ともに血が流れているのに、どういうわけか右足だけが蚊によってボコボコにされたのである。
「心頭を滅却すれば火もまた凉し!」
 なんて言ってはみても、やっぱりかゆいものはかゆい。僕はもうたまらずに飛び起きてしまったのである。
 今日から泊まったこのペンションはベッドもふかふかで最高の寝心地。自ずと眠りも深くなるというものだけど、それでも目がさめてしまうほどのかゆさなのだ。
 ひとつの部屋に一家5人が寝ている状況だから、灯りをつけるわけにもいかない。
 僕は仕方なく手探りでごそごそと荷物を探り、そしてキャンプに備えて家内が用意したかゆみ止めを取り出したのである。
 この薬は虫さされだけでなく、オムツかぶれにも効くし、あせもにも効くというマルチかゆみ止めなのだ。もしかしたら「わたしたちのデリケートな場所」にも効くかも知れない。
 とにかくそんな風にあれにもこれにも効くと言う薬だから、もしかしたら大して効かないのではないかと思っていたのだが、それがなんとえらい効きようなのである。
 チューブから薬を搾り出し、右の足首からした全体にべたべたとぬたくると、あっという間にかゆみがすーーっと消えていったのだ。
「おお、これは凄い。魔法のようだ! キンカンなんて臭いだけで目じゃないぞ。ムヒなんて比較にならない。こんなすばらしいかゆみ止めがこの世にあったのか!?」
 痒み止めは塗っても効かない。その常識をこの薬は一気に覆したのである。
 これはやはり薬学の発達なのだだろうか?
 そりゃそうだ。パソコンがどんどん発達しているのに、痒み止めがいつまでたっても進歩しなくてかゆみを止めないというのも変な話しだから、やっぱりそうなのだろう。
 現代の医学、薬学をもってすれば、このようにすばらしい薬が生まれるのだ。
 科学ってすばらしい!
 いやまてよ。それにしてもちょっと効きが早すぎやしないか。つけたとたんにかゆくなくなったぞ。いくらなんでもそんなに効くだろうか?
 いやいや、そんなはずはない。薬をつけただけで痒みが収まると言う自己暗示にかかるほど、俺はふやけちゃいない。催眠術だって全くかからないほどの自分を言うものを持った男なのだ、僕は。
 そうだ。あの薬は凄い。あの薬はよく効くのだ。
 そうだ、これは科学の進歩なのだ。薬がどんどん進歩した成果なのだ。自己暗示なんかじゃない。そんなことがあってたまるかーーーーーーーっ!
 ビバ、現代薬学なのだーーーーーーーーーーーーっ!!
 僕は心の中でそう叫び、僕は驚きと興奮と安堵感に包まれながら、そのまま気持ちよく眠りにもどったのである。

 朝目がさめて、半身を起こしてふと目の前を見ると、そこには真っ白になった僕の右足と、歯磨き粉の「PCクリニカ」のチューブが転がっていた。

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Akiary v.0.51