ヒラエッセイ

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2006年3月1日(水) 人の道は蛇の道

 会社が主催して、特約店向けのセミナーを開いた。
 今回のセミナーの講師の一人は、お坊さんだった。なんでも、本も出しているという有名なお坊さんなのだそうだが、宗教に興味のない僕は、彼をまったく知らなかった。
 お坊さんだけあって講演の内容は株価の話でもなければ経済学の話でもない。商売上の具体的な話ではなくて、人と人との交わりだとか、世の中のありがたみだとか、人生の意味だとか、生きる喜びだとか、挨拶の重要性だとか、そんな話ばかりだった。いかにもお坊さんらしく、我々に、人の道を説いてくれた。

「あなた方の会社の企業理念は何でしょうか。この質問に対して、きちんと答えられる会社は少ないのでございます。中には高々と企業理念を掲げておられる会社もおありですが、そのほとんどは商売に特化した理念が多い。『お客様第一主義です』とか、『お客様と共存発展します』とか、『品質第一主義』などというのがほとんど。しかし皆さん、企業が利益を追求する目的を持っている以上、そんなことは当たり前です。当たり前のことはどうでも良いのです。ぜひとも企業理念として、もっと根本の姿勢を示していただきたいと思います。企業は法人です。法人とは法律的には一人の人間のように扱える擬態であるということです。つまり企業理念とは企業を人にたとえて、その根本の性格を表すものです。それが『お客様を大事にします』なんてことで良いのでしょうか。それは商売人心得にすぎません。人間のもっと根本たるものは、『社会に対してどう貢献するのか』とか『他人に対してどう貢献するのか』というようなものではございませんでしょうか。そういうものをきちんと企業理念に掲げておけば、行動の指針となり、違法でなく儲かりさえすれば何をしても良い、という行動に走ってしまうことなどあり得ません」

 法律やルールを守ればいいのではなく、人としての道を一人ひとりが意識するべきで、それは個人も法人もおなじだと、和尚は説くのであった。とても立派な人だ。
 この立派な和尚は会場をあとにすると、講演会実行スタッフに念入りに挨拶し、そして最後におっしゃった。
「講演料は、お布施という名目でお願いします」
 社会に対して貢献しなくてはいけないが、拙僧の脱税には手を貸して欲しい、という和尚様のお話に、実行スタッフはいかなる答えを出すのだろうか。
 南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。

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