ヒラエッセイ
バックナンバー
2004年12月13日(月) 格闘技
突然ですが、格闘技の話をします。
「あの曙っての、やめちゃえばいいんだよなぁ。あんなのみっともないよ。何だよあの負け方。弱いんだからさぁ、もう出なければいいんだよ」
と、電車の中でサラリーマンが論じていた。
よく格闘技について何が一番強いのかで激論しているやつがいる。
「いちばん強いのはボクシングだよ」
「いいやぁ、実戦なら空手だよ」
「いやいや、グレーシー柔術だろ」
こういう人はだいたい格闘技をやったことがない。
格闘技というのはどのルールでやるかでまったく強さが違ってくる。たとえばボクシング選手と空手家がグローブを付けて戦ったらボクシング選手に分がある。なぜなら、グローブを付けただけで空手の威力は半減してしまうし、ボクシング選手はグローブを使ってこその技術をもっているからだ。
逆もまたしかり。ボクシング選手の防御はグローブがあることを前提としている。グローブ二つを顔の前にくっつけて、その間から相手を覗きながら防御するスタイルがあるが、あれはグローブがあるからこそできるのであって、素手だったら真ん中ガラ空きになってしまう。それにグローブを利用して相手の頭に回転力を与えて脳震盪を起こさせてダウンを奪うというテクニックは、素手では使えない。こうなれば空手家の世界になる。
戦う場所も関係がある。いくらグレーシー柔術が優れていても、戦っている場所が岩場だったら転がって戦うことができない。膝下まで水のある状態だとしてもそうだ。
つまり、場所や道具や禁止技などによって優位性が変わってしまうのが格闘技なのだ。
僕の知り合いの空手家は元CIAの特殊要員だった。彼は空手の試合に負けたことについて、こう言っていた。
「ちくしょう。俺の得意な技は全部禁止になってるじゃないか!」
当たり前だ。彼が得意な技はみんなすぐに相手が死んじゃう技ばかりなのだから。
それじゃ、曙はいったいどんなルールなら強いのかということだけど、これは誰でも簡単にわかる。
火曜サスペンスで、探偵ごっこをして犯人を追い詰めるでしゃばりな主人公の女と犯人が最後にもみ合うあの、崖っぷちだ。あそこで曙と武蔵が試合をしたら、何発かの蹴りやパンチを我慢しながらとにかく突き飛ばしていけば、あっという間に武蔵は崖の下。
あるいはリングで戦うとしても、大仁田厚がやっていた電線の張り巡らされたリングだったら曙は強い。とにかく相手をバンバン電線に向かって突き飛ばしてビリビリやっちゃえば、相手はふらふらだ。
K1のリングを地上高10メートルくらいにあげちゃうというのもいいな。とりあえず落とされたら痛い。ちょっと怪我するかな。はたまた死ぬかもしれない。いずれにしても、曙が落とされる可能性は少ないに違いないのだ。
まぁ、別に僕が曙の応援をしても一文にもならないのだけれど、とにかく朝っぱらからきれいなおねえちゃんに知ったかぶりして語ってる頭の悪そうなサラリーマンがうらやましいというか頭にきたので、こうあれこれと考えていたのである。
「東京タワーの300メートル位置に設置しました特別リングで行われるデスマッチ。曙対ボブサップ」
「新春異種総合格闘技デスマッチ」とでも題してこんな試合をやってもらいたい気もするけど、どっちが落っこちてくるにしても、かなり場所を空けておかないと無理そうだ。
2004年12月14日(火) そこのソナタ
韓国が流行っている。
自慢するわけじゃないけれど、僕はずっと前からキムチが好きだし、アマチュア無線で韓国の友達を作って、うちに招いたりしていた。
しかし流行というのは恐ろしい。病気の流行りも恐ろしいけど、芸能界の流行というのも病気の一種かもしれない。
韓国俳優がかっこいいかどうかはともかく、韓国人の俳優ならなんでもいいみたいな勢いになってきたのが病的だ。
噂によると、日本の芸能人の中には在日韓国人が多くいて、彼らはそれを隠しているという話だ。つまり、最近までは隠さなくてはいけないほど人気がなかったということだ。それが今では大人気。しかし、もしもそうなら彼らは今頃悩んでいるはずだ。
「実は韓国人なんです。はっはっは! とでていこうかな」
そんなことを考えていてもおかしくはない。
しかし怖いのは流行が去ったあとだ。昔漫才ブームが去って秋風が吹いてしまったように、韓国ブームが去るとそこに残るのは中途半端な韓国料理店と本屋の店頭に山積みにされた韓国語講座のテキスト。そうなったら「言わなきゃよかった」になるから芸能人もなかなか言い出せないだろう。
それにしても、本当に韓国ブームという病気はすごくて、僕の頭の中にまでこびりつきつつある。
先日も時代劇を見ていて殿様が「そなたはだれじゃ?」なんて言ったらクイズじゃないのに思わず、「ぺ・ヨンジュンです」と答えそうになってしまった。
2004年12月15日(水) 痛いですか?
人間ドックに行ってきた。会社の人事部に言うときに僕は間違って、
「来週人間ドッグを受けてきます」
と言ってしまった。
すると人事の担当者は、
「そりゃ人間ドックですよ。人間ドッグじゃ人間犬だ、あはははは。そりゃなんですかね。人間と犬をつなげたやつか、はたまた犬みたいな人間なのか人間みたいな犬なのか。昔漫画でうなぎ犬ってのがいましてね、顔は犬で体はうなぎなんだな。そうすると人間ドッグは顔が犬で体が人間だ。なんか気持ち悪いですねぇ、あはは。んで、来週のいつですか、人間ドッグは。わんわん!」
いやな野郎だ、こいつ。よっぽど暇らしい。
それはともかく、今回の人間ドックでは初めて肛門の触診検査を体験した。今後これを受診する人のために、この「肛門触診」の体験談を披露しておこうと思う。
まずやり方は簡単。ビニール手袋をした医者が僕のオケツの穴に中指を突っ込んであちこちかき回すだけ。たぶん、その指には潤滑剤のようなものを塗っているらしく、意外と簡単に指は入ってくる。
噂によると東大系の医者は右手、慶応系は左手なんて聞いたことがあるけれど、これは当てにならない。本当はたぶんみんな利き腕の方だと思う。
この検査でわかるのは大腸がんとか前立腺の異常らしい。しかし、どうにも要領の得ない検査だった。どう要領を得ないのかは僕と医師との会話を赤裸々につづった内容を読んでもらえばわかると思う。
「はい、じゃぁズボンを脱いでください」
「パンツは?」
「パンツもです」
「一度に言ってくださいよ」
「お尻診るんだからあたりまえでしょう。さて、それじゃ指を入れます」
こういいながら医者は、右手の中指を立てて、手を左右に回してその指を愛でるかのように観察した。まるで名刀を手にした侍が刀の刃の状態を確認しているあれみたいだった。
「うぐぅっ!」
一気に挿入してきた。
「痛かったら言ってください」
「い……痛いです」
「もう痛いですか。変だな。まだ入れただけですよ」
「先生。ケツの穴に指入れたら誰だって痛いですよ」
「ああ。あのねー、そういうのじゃなくて普通に入れたときとは違う痛みですよ。それがあるかどうか聞いてるんです」
「先生。僕は普段ケツの穴に指なんて入れてませんから、普通の痛さなんてわかりません」
「まぁそうですが……とにかくですね、今から動かしますから、特に痛いと感じたら言ってください」
「い……痛いです!」
「どんな痛みですか?」
「どんなって?」
「普通じゃない痛みですか?」
「ですから、普段はそういうプレーをやってないんでわかりませんてば」
「じゃあ、聞き方を変えます。我慢できない痛みですか?」
「我慢すれば我慢できるけど、我慢できないと思えば我慢できない」
「どっちなんですか?」
「我慢できるかどうかは本人の精神力であって、病気かどうかは別でしょう」
「よわったな。それじゃここはどうですか?」
「痛いですよ。そこもあそこも全部」
「どんな痛みなのかなぁ」
「ケツに指を入れた痛みですよ。他に言いようがないや。あー痛い」
「なんかこう、飛び上がるような痛みはありますか?」
「うんこ」
「は?」
「うんこしたい」
「うわっ。もうういいです!」
結局異常があったのかどうかさっぱりわからない。人様のケツの穴に指を突っ込んで、「普通の痛みですか?」なんて質問されてもアナルセックス常習者以外には回答できない。
さて、医者と看護婦さんの前でケツを出してこのわけのわからない検査をしてもらうかどうかは、皆さんのご判断にお任せしましょう。
ま、一度経験するのもいいかも。新しい世界が広がるかもしれないしね。